一般社団法人 河合隼雄財団 | KAWAI HAYAO FOUNDATION

Englsh
一般財団法人 河合隼雄財団ロゴマーク

当財団のロゴマークは、画家・装幀家・絵本作家の安野光雅氏に描いていただきました。
安野氏は生前の河合隼雄と交流が深く、多くの著書の装幀を手がけられています。
ロゴマークと河合隼雄について、週刊朝日2013年1月25日号の安野氏のエッセイ「逢えてよかった」で紹介されました。

新着情報

第十三回河合隼雄物語賞・学芸賞の授賞式が行われました

2025年7月7日(月)、たいへんな暑さの七夕の夜、

京都のホテルオークラにて、受賞者、選考委員の他、多くの関係者が一堂に集まり、

第十三回河合隼雄物語賞・学芸賞の授賞式が和やかな雰囲気の中で行われました。

 

河合成雄評議員の司会で授賞式およびパーティーが進行していきました。

 

まず、河合俊雄代表理事による開会の挨拶です。

河合隼雄の7人兄弟の最後の一人であった、隼雄のすぐ上の兄・迪雄が、

残念ながら今年の3月に99歳で亡くなり、一つの時代が終わったことを思いつつも、

河合隼雄の最後の作品『泣き虫ハァちゃん』(新潮文庫)は

自身の小さい頃の思い出を描いたものであったことに触れ、

今回物語賞受賞の小池水音さんの作品、

子どもの目からみた物語とのつながりを、

そして、河合隼雄がインドア派の一方で、

兄の河合雅雄は対照的にアウトドア派で、やがて生物学に進み、

今日の学芸賞の鈴木俊貴さんや山極壽一選考委員とのつながりを感じたこと、

このように、河合隼雄物語賞・学芸賞を通じて、

河合隼雄の思想や思いが未来につながっていく願いが、語られました。

七夕の夜にこの願いが天に届くことを願う気持ちで、会場の人たちも耳を傾けました。

 

続いて、文化庁長官として文化活動の広がりを目指した河合隼雄の思いを受け継ぎ、

授賞式恒例となったミニコンサートです。

もともとフルートではなくクラリネットをやりたかったという河合隼雄にちなみ、

今回初めてクラリネット奏者をお迎えしました。

春田傑(はるた・たかし)さんのクラリネット、吉岡里紗さんのピアノによる、

モリコーネ・メドレー、クラリネット協奏曲第2楽章(W.A.モーツァルト)が奏でられました。

しばしの間、会場にいる一人一人が、深みのある温かなクラリネットとピアノの音色に包まれ、

言葉にならない思いに浸る時間となりました。

 

このあと、第十三回河合隼雄物語賞・学芸賞それぞれの授賞のセレモニーが始まりました。

 

今回、物語賞を受賞されたのは、小池水音さん『あのころの僕は』(集英社)です。

小川洋子選考委員より、小池さんに正賞の輪島塗盆と副賞の授与が行われました。

物語賞の選考委員の3名、小川洋子委員、岩宮恵子委員、松家仁之委員が紹介されるとともに、

選考委員を代表して小川さんより講評をお話いただきました。

 

小川さんは、物語賞のこれまでの13回の作品はどれも個性的な作品ぞろいでしたが、

それは13年かけて、ずっとこの賞にかかわってきた選考委員、財団関係者、

受賞者みんなで「物語とは何か」を考えてきた結果であり、

今回も素晴らしい作品を受賞作とすることができた喜びを述べました。

今回の小池水音さんの受賞作『あのころの僕は』の内容を紹介しながら、

小池さんが、5歳の主人公が抱えている混沌としたものをありのままに、

その心の曖昧さ、不安定さに耐える文体で表現したことの素晴らしさや、

主人公の少年を何度も抱きしめたくなるような気持ちになったこと、

さらに「沈黙を共有する」特別な関係のこと、そして実はこの記憶は

思春期に成長した主人公の過去の体験を記憶の小さな箱に納めて

「物語にできた」過程であったことが明らかになるなど、

いくつもの大切な見どころを温かく取り上げられました。

小川さんが河合隼雄から聞いた大事な言葉「生きるとは、自分の物語をつくること」という言葉が、

この作品を読んでいる間じゅう響いているような、

幸せな時間を過ごすことができたと、著者の小池さんにお祝いとともにお礼を伝えたいと結びました。

 

なお、選考委員の岩宮恵子さんの講評「『語られないこと』の重さ」は、

『新潮』8月号の紙面でお読みいただけます。

 

小川さんの講評の後、小池水音さんから受賞のお言葉をいただきました。

小池さんが20歳前後の大学生の頃、

河合隼雄の本を熱心に読んでいたその当時、

自分の出身幼稚園で3年間アルバイトをしていた経験、

そのころ5歳であった甥っ子さんとの経験から、

ふと思いついた「あのころの僕は」という、

タイトルにもなった言葉の印象を手掛かりにして

この作品が生まれたことを話されました。

幼い子ども時代を「思い出す」ことの淡さ、

歪みをも河合隼雄のいう「内的な真実」ととらえて、

そしてそれは誰しもの中に等しく存在し、思い出すにたる生の輝きがあるのだと感じて、

書き進んでいった作品だと思いを語られました。

主人公の少年とお友達との沈黙の共有についても、

河合隼雄が心理臨床でクライエントにじっと向けた沈黙と

何か重なっていたらいいなと思っていること、

お会いするのはかなわなかった河合隼雄の遺された著作に

これからも触れていきたいと話されました。 

最後に、幼稚園でともにしたおよそ100人の子どもたちと、

甥っ子に感謝を伝えたいと述べられていました。

小池さんが多くの4,5歳の子どもたちの心の中に飛び込んで、

そこで同じ高さの目線で関わってきたところから生まれた作品であることが、

あらためて実感される授賞のスピーチでした。

 

続いて、学芸賞の授賞セレモニーが行われました。

今回、学芸賞を受賞されたのは、鈴木俊貴さんの『僕には鳥の言葉がわかる』(小学館)です。

選考委員の山極壽一さんから、正賞と副賞が手渡されました。

学芸賞選考委員として、内田由紀子委員、中沢新一委員、山極壽一委員、若松英輔委員が紹介され、

選考委員を代表して山極さんより講評をお話いただきました。

山極さんは、鈴木さんの本の魅力について、わかりやすく、

読んでいると主人公の鈴木さんになったような気持ちで

森の中に飛び込んでシジュウカラと出会うような臨場感、

そして一直線で明るく、数々のつらいフィールドワークの体験も失敗も底抜けに明るく書いていて、

難解で困難なこころについて誰にでもわかりやすく伝えた河合隼雄に通じるという印象を受けたと話しました。

本の内容を紹介しつつ、人間にしかないと言われていた言葉のもつ規則性を、

少なくともシジュウカラという鳥が持っていることの証明を、

自然科学の実験の手法をさまざまに駆使して、

用意周到に一つ一つ乗り越えていった、その実績のみならず、

鈴木さんの頑健な独創力は素晴らしく、世界での評価につながっていることも語られました。

 

それととともに生物学者の先輩としての助言も。

もう一歩、鳥の世界に踏み込んで、

人間とは異なるコミュニケーション、

人間が気がついていない生物の世界があることをさらに見つけてほしいとの大いなる期待をし、

鈴木さんの将来に河合隼雄を冠する賞を授けたいと思うと述べられました。

 

なお、選考委員の中沢新一さんの講評「楽しい新領野の発見」は、『新潮』8月号の紙面でお読みいただけます。

 

続いて、鈴木俊貴さんからの受賞のお言葉をいただきました。

2005年以来、森の中で鳥の声に耳を傾けていると、

シジュウカラがほかの鳥と比べてもいろんな言葉をもっている、

使い分けていることに気が付き、この声は「ヘビ」だ、とかだんだんわかっていき、

この森の中での確かな気づきをいかに科学的に実験で確かめていくか、

さまざまなフィールドワーク、観察、実験が粘り強く(そして楽しく)繰り返されてきて、

「鳥にも言語能力がある」というこれまでの言説を覆す、世界も驚く大発見に成功し、

動物言語学という新しい領域を開拓しつつあるこの20年の軌跡について熱く語られました。

 

「動物言語学は人間と自然のつながりを取り戻す上でも大切なんじゃないか」。

鳥の言葉がわかると世界の見え方が変わる、散歩も楽しくなり、

自然環境にどうやって関わっていったらいいかを

個々人が考えるきっかけとして大切になるのではないかと、

鈴木さん自身が人間と自然との間の架け橋となって、

フィールドワークもアウトリーチもがんばりたいこと、

そして今めちゃくちゃすごい発見をいくつかしていて、

これを発表し、いつかまた皆さんに読める形で本にしたいと力強くこれからを話されました。

 

今日も長野の森からここへ来て、このあとも森に戻る予定だという鈴木さん。

授賞式のためのパリッとしたスーツ姿や熱を帯びた饒舌なスピーチは、

実は世を忍ぶ仮の姿で、鳥と人間の二つの世界を自由にすばやく行き来する様子に

目を見張る思いでお話をうかがいました。鈴木さんの明るさやポジティヴさは、

自然のもつ豊かな生命力からきているのかもしれません。

 

授賞の記念撮影のあと、

河合隼雄と谷川俊太郎さんの対談

『魂にメスはいらない』(講談社+α文庫版)を編集担当された、

猪俣久子さん(現・さくら舎)による乾杯の挨拶です。

講談社+α文庫の「プラスアルファ」というのは自分のことだ、

と気に入っていたなど貴重なエピソードを交えつつ、

これからますます河合隼雄の言葉が求められることに思いを馳せながら、

会場の皆さまと盃を交わしました。

 

今回の物語賞・学芸賞は、いずれも河合隼雄が繰り返し語ったように、

〈子ども〉や〈自然〉が、われわれ大人や人間がコントロールしたり

守らねばならない対象ではなく、それらとの関わりをいかに結び、

その声に耳を傾け、そこからわれわれの世界を見ることの大切さを、

未来につなげていくものとなったのではないでしょうか。

 

小池水音さん、鈴木俊貴さん、第十三回河合隼雄物語賞・学芸賞受賞、

まことにおめでとうございました。

11月9日に河合隼雄財団主催の河合隼雄物語賞・学芸賞記念シンポジウムを予定しています。

詳細は後日こちらのHPでお知らせします。お楽しみに。

河合隼雄の誕生日に~この一年で出版された本たち~(2025年6月23日)

今日6月23日は河合隼雄の誕生日です。

雨男と言われた河合隼雄らしい季節を迎えました。

 

例年同様、河合隼雄の誕生日を機に、

この1年で出版された河合隼雄関連の本をご紹介します。

 

続きを読む

第13回河合隼雄物語賞・学芸賞が決定となりました!!

本日、選考会にて、第13回河合隼雄物語賞・学芸賞の授賞作品が決定いたしました。

詳細は下記をご覧ください。

 

■物語賞はこちら

 

 

 

■学芸賞はこちら

 

 

第13回河合隼雄学芸賞が決定いたしました!

第13回 河合隼雄学芸賞

〈選考委員〉内田由紀子  中沢新一   山極壽一 若松英輔   (五十音順)

 

□授賞作□ 

『僕には鳥の言葉がわかる』

           鈴木 俊貴(すずき・としたか)   (2025年1月28日刊行 小学館)

 

続きを読む

第13回河合隼雄物語賞が決定いたしました!

第13回河合隼雄物語賞

〈選考委員〉岩宮恵子 小川洋子 松家仁之  (五十音順)

 

□授賞作□

『あのころの僕は』
   

   小池 水音(こいけ・みずね)    (2024年9月10日刊行 集英社)

 

  

続きを読む