中沢新一さんと河合俊雄代表理事の共著

『ジオサイコロジー:聖地の層構造とこころの古層』(創元社, 2022/12/20発行)の

出版を記念して、著者二人による記念対談が、12月4日(日)、

クリスマスムードににぎわう師走の日曜午後の東京・日本橋の会場と、

オンラインのハイブリッド開催で行われました。

 

 

 

思想家・人類学者として著名な中沢新一さんは、

河合隼雄学芸賞の選考委員のお一人でもあり、

河合隼雄とも『仏教が好き!』(朝日文庫)の共著などを通じて親交も深く、

その縁は河合俊雄代表理事と親子二代にわたって続いています。

 

 

このたび出版された本のタイトル、「ジオサイコロジー」は何か。

 

本書を読むことでその詳細はわかってきますが、

中沢さんが『アースダイバー』で探究した、

ジオミトロジー(Geo-mythology:ジオロジー〔地理学〕と、

ミトロジー〔神話学〕を合わせた学問という意味)の仕事を、

サイコロジー(psychology)に引き戻す作業であるとのこと。

 

つまり、人類学者と臨床心理学者の二人のそれぞれの

専門領域を深めていく中で、

ジオサイコロジー」という新しい研究領域が

必然的に開くことになったといいます。

 

その共同作業は、河合代表理事による「まえがき」にあるように、

2021年10月に日本ユング派分析家協会(AJAJ)主催のセミナー

「聖地の層構造とこころの古層」(中沢新一・河合俊雄)での対話の機会を経て、

その記録に基づいたものが本書となりました。

 

そのような経緯から生まれた本書は、

「心理学や人類学の本としてだけでなくて、こころとは何か、

人間存在とは何か、日本人とは何か、今のわれわれの生き方は、

などの問いに興味を持っている人にとって、参考になって楽しめる本」

となっています。

 

さて、今回の出版記念対談に先立ち、

河合俊雄代表理事による講演

「超越的なものの直接体験とこころの古層『精神の考古学』とユング心理学」

が行われました。

講演では、今回出版された

『ジオサイコロジー:聖地の層構造とこころの古層』のその後、

現在中沢新一さんが雑誌『新潮』に連載中の「精神の考古学」を

河合代表理事が読んで刺激され、

立ち上がってきた新たな問いや思考をさまざまに紹介していくお話でした。

 

新しい心理学の分野の多くは、

あくまで人間中心であるものが多く、

一方ジオサイコロジーは、地形・自然と深く結びつき、

それらと「直接性」を保ったこころに関する心理学である

という点での違いを紹介。

そこに日本人のこころの特殊性があることを、

日本各地に残る聖地や、箱庭療法などの例から話されていきました。

 

本書にもある、「岩」の話、

さらに生命の本質とつながる「光の体験」についての多様な例は

たいへん興味深いものがありました。

仏教や東洋思想における修行と心理療法との対比や

自然と一体になることの重要性など、本書の続編ともいえる、

中沢さんの『精神の考古学』からインスパイアされた河合代表理事の問いや着想は

まだまだこの先も展開していくようで、

また現代のわれわれにとって常識と思われていることの一面性も気づかされる、

たいへん刺激的なお話でした。

 

続いて、中沢新一さんと河合俊雄代表理事による対談です。

中沢さんは、まず聖地をめぐる、

聖地巡礼が現代のアニメファンによる聖地巡礼について、

実は深いその意味について指摘しました。

二次元のアニメの先のリアリティを求めて、

元の場所=ジオ、その現実の地形の中に自分が立って、

両方に重ね合わせる体験によって心の中のイメージの運動が現実性を帯び、

さらには人生にも意味を持つようになるのだと。

古来の聖地巡礼ももともとは同じであった。

そして箱庭も同様で、頭の中でいくら思い浮かべただけではなく、

現実化して、そこにミニチュア化された中に、

自らの体を一緒にその空間に投入することで意味が変わり、

意味を持つ象徴になる。

 

これまでのサイコロジーは観念に偏りすぎてしまっていて、

それをもう一度現実性のジオの方に引き戻す作業が

「ジオサイコロジー」であること、

日本人のこころにとって、

ジオは大切だと思ってこれらの探究の仕事をしているのですと話されました。

 

それは、河合隼雄の日本人の心理療法について考え続けたことで、

人間の観念中心ではなく、

自然界と人間を媒介する中間の心理療法について考えていたことともつながります。

 

さらに二人の話題は、

ヨーロッパの強烈に転換をとげた非常に特殊な意識と、

日本人の人類に普遍的な意識の源流と

現在に至る変化の歴史について議論が深まっていき、

今世界を席巻している社会問題にまで話は及んでいきました。

自然と深く結びついた普遍的な日本人のこころは、

しばしば批判の対象にされるが、

「日本人のこころを恥じることもなく、遅れたり、劣ったものと思うことなく、

その心のままで、それでいいのだ。それでいい、というところから

一つの世界観や哲学を構築していくという仕事が大事だ」と中沢さん。

河合俊雄代表理事は、

それが「どういう背景からきているのか深めることが大事。

どういう背景があり、どういう修行や体験があるのか。

それを残すとか知らせていくことが大事だと思う」と応じていました。

二人の対談はさらに、

「精神の考古学」でとりあげられた「光の体験」、

「精神」というものの理解の困難さ、

さらには錬金術など、光のような速さで議論は展開し、

光のように広がり、

つぎつぎに別々の話題が一筋の光によって貫かれていくようで、

時間はあっという間に過ぎていきました。

 

講演と対談は、リラックスしたムードで、

しばしば笑いに包まれながら、

本や連載で読むことができる内容のその先の話は

いつまでも尽きることがありませんでした。

 

いずれにせよ、

人類学者としての中沢新一さんと、

臨床心理学者としての河合俊雄代表理事の、

それぞれ個々の仕事の延長線上に見出された接点・交点が、

セミナーなどのディスカッションを通して浮彫りになり、

それが本書となったとのこと。

さらに本書の「その先」に

どんな思索と思想が展開していこうとしているのかを

このたびの対談でさらに垣間見ることができた貴重な時間でした。

 

対談終了後、会場では、

中沢さん、河合代表理事によるサイン会がなごやかに行われました。

コロナ禍が始まって以来数年ぶりに、

短い時間ながらも直接一人一人と言葉を交わし、

たいへん温かな時間となりました。

 

今回もたくさんの皆様にご来場・ご視聴いただきまして、ありがとうございました。