台風による被害に遭われました皆さまには謹んでお見舞い申し上げます。

 

今夜は京都の夏の風物詩の一つ、五山の送り火です。

お盆の間に滞在したご先祖たちが、

山々に送り火とともに還っていく日です。

 

 

河合隼雄は、17年前の2006年の8月16日に、

何人かのクライエントとの面接をした後に懇親会に出席し、

夜遅くに帰宅して眠りにつきました。

翌朝に異常に気づかれて救急車で搬送されましたが、

その後一度も目を覚ますことなく、

約11ヶ月後に亡くなってしまいました。

 

「一番中心にあるのは死の問題だと思います」(『魂にメスはいらない』)

とさえ語っている河合隼雄ですから、

まるで死者たちと送り火にたましいが誘われていったかのように思えます。

 

 

ユングは第一次世界大戦前後に精神的危機に陥り、

無意識との対決の記録を『赤の書』に残していますが、

1916年の初めに死者たちが救いを求めて自宅を訪れてきた体験も

『赤の書』や『ユング自伝』で読むことができます。

また68歳で心筋梗塞の発作を起こして死にかけたときに、

自分が地球からはるかに遠ざかっていくヴィジョンを見たのも自伝で報告しています。

 

一度も目覚めることがなかった河合隼雄の場合には、

11ヶ月もの眠りの間にどのような体験をしたのかを

われわれには知るよしもありません。

しかし五山の送り火を見ながら、

河合隼雄は長い眠りの間に何をつかんだのかな、

どのような死についての物語を持ったのだろうかと思いをはせたくなります。