兄弟とは、不思議なものです。

河合隼雄もどこかで「初めて出会う他人」と書いていた気がします。

親のように絶対的ではないけれど、寝たり起きたり遊んだり、多くの時間を共にすごす、とても近くて、でも自分とは違う存在。

 

男ばかり6人兄弟、3番目が雅雄で5番目が隼雄。

雅雄はサル学、隼雄は臨床心理学、後に違う道を歩むことになる二人は、どんな時間を共に過ごしたのでしょう。

今日は、そんな話を雅雄さんに語って頂くという会でした。

 

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話は、隼雄は泣き虫だった、というところから始まりました。

泣き虫ハァちゃん

「靴下がはけないとかでも泣いていた。よく履かせてやりましたよ。」

ガキ大将だったという雅雄さん。

隼雄泣かせたらしょうちせんぞ、と幼稚園時代、「Iくん」(未だに名前を覚えておられるそう・・・!)の胸ぐらをつかんだこともあったとか。

 

とても感受性が強く、ちょっとしたことでも泣いたり笑ったりしていた弟を

兄たちはからかいつつも、あたたかく見守り、時には体を張って守ってくれていたんですね。

 

小学校、中学校、戦争時代へ・・・、当時のエピソードは軽妙に語られるのですが、

その背景には重く苦しい戦争がありました。

 

その間、いろいろな失敗もありながら、不思議なめぐりあわせにも助けられて、二人は京都大学へ。

この「失敗」をうまく使ってこられたように思えるというフロアの山極さん(現京大総長であり雅雄さんの後輩、河合隼雄学芸賞選考委員)

に応えて、雅雄さんはこう言いました。

「失敗なんて、どうっちゅーことないですよねえ。

戦争中、戦後には、なーんにもおもしろいことがなかった。

だから、国際野師クラブを作っていた。最初は会員二人だったけどボクは早々に抜けました。隼雄はいつのまにかウソツキクラブの会長にもなっていたけど」

 

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雅雄さん自身の研究にも話は及びます。

Q. 西洋のサル研究は、人間を入れない環境での観察を主な方法論としていた。

一方で雅雄さんらの方法論はサルの中に入っていって、一頭一頭に名前をつけて個体識別をする方法。

一般的には日本人よりも西洋人の方が名前を覚えているのに、この方法は西洋人には難しいようだが?

 

これに対する雅雄さんの答えは印象的でした。

 

人間、その次が動物という考えをしていない。

サルの中に人間が入ったら、サルの環境をディスターブする(邪魔する、乱す)という批判がずいぶんとあった。

でも、サルの中に鹿が入ってきてもサルは邪魔だと思わないでしょう?

人間が同じ気持ちをもって群れに入ればディスターブしないんですよ。

サルの方も惚れてくるしね、これは人によるけど。(客席笑)

 

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かつて雅雄さんに惚れた女子サル諸君、今も雅雄さんは最高にかっこよく、おもしろく、熱く生きておられます。

特別に感動的なお話だ、というわけではないのだと思うのですが

なぜか、心の深いところがあたたかくなる、雅雄さんにはそんな力があるようです。花咲か雅雄さん。

 

甥・俊雄からの最後の質問。

Q. 今、現在は何をしておられるのか。今後へ向けてのプロジェクトを教えて下さい。

 

「この3月にすべてをやめさせてもらって、初めての隠居です。

80代は「八十路」、やそじです。90代はあれなんて読むの?「クソジ」?

100歳になると仙人になるらしいけど、僕は仙人になる気はまるでない。」

 

「心がけていることが二つあります。

ひとつは迷惑かけること。もうひとつは義理を欠くこと。

迷惑はいつもかけてるからいいんだけど、義理を欠くって難しいんですね。」

 

そうは言いながらも「義理堅く」こんなイベントに出てきてくださった雅雄さん。

今は、新しい作品を執筆されているそう。

どんどんと義理を欠いて、雅雄先生ご自身の言葉で、私たちにたくさんのことを語ってほしい!

ついついそんな勝手なことを思ってしまいました。

 

秋の行楽日和の日曜日、わざわざ足を運んでこの時間を共有していただいたたくさんの方々に

ここで改めて感謝を申し上げます。

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ありがとうございました。

 

このイベントについての記事が掲載されました。

毎日新聞様 http://mainichi.jp/articles/20161031/ddl/k26/040/268000c

 

京都新聞様 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161031-00000003-kyt-cul